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特になにかあったわけでもないのだけどなんだか急にさびしくなって、本を読んでいる千種の服の裾を掴んだら、千種は淡々とした感情のない声で「なにかあったの」と呟いた。私はなにも答えないで、黙ったままシャツの裾を握る手に力を込めた。きっとシャツは皺になってしまうだろう。それでも手を離すことなんてできない。一度握ったものをはなすということはとても勇気のいることなのだ。馬鹿みたいに必死に離さずにいると、千種は読んでいたページに藍色のリボンのついた栞を挟んで、溜息をつきながら本を閉じた。眼鏡の位置を人差し指で直しながら「どうしたの」と私に視線を向ける。闇の底みたいな黒色の瞳には矢張り感情の欠片も見当たらないのだけど、それでも心配してくれているんだと感じて泣きそうになった。

こわいよさびしいよそれはだれのせい
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